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エピローグ
暁。
わたしは、布団に並べられたふたつの死体を見ながら、もう幾時間も征服感と喪失感の鬩ぎ合いに浸っていた。
其の屍体。
世にも美しい屍体。
触れる事さえ罪の様な…。
躰はぐっしょりと濡れて、明け方の陽の光に反射して鈍く耀いて居た。
そのきらめきは、艶めかしく、麗しい。
溺死。
だが、発見が早かったお陰で殆んど傷む事無く生前の姿を保って居た。
手首には、何かを結んだ痣の様な跡。
恐らく、入水時には互いの手首を手拭いか何かで結び付けてあったのが、ほどけ流れてしまったのであろう。
…だが、手は繋いだ儘。
お互いの指と指を絡め、きつく握り締め合って居る。
まるで、永遠に離れぬと云う印の様に。
何処からとも無く、確信めいた想いが浮かび上がって来て、わたしは自虐的な薄ら笑みを浮かべた。
艶やかに濡れた睫毛が凛と瞬く。
――この美の前では、この世の全てが無力。
死すらも、美を蹂躙することは叶わなかった。
ふと、見渡すと空がすっかり白んできている。
ああ、いけないいけない。
そう小さく呟いた。
この屍体達が腐り出す前に…
――わたしも死のう。
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