【本編】

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一通りの質問タイムを終えたあと、真ん中にいる面接官があたしの目を見て言った。 「最後になりますが、何かアピールしたいことがあったらどうぞ」 ふいにあたしの脳裏に「叶美」の顔がよぎった… 『…はい。あたしは「叶美」というモデルが嫌いです!死ぬほど大嫌いです!だから「叶美」を超えるモデルになってみせます!絶対になります!!』 あたしは深々と頭を下げ、キッとした目つきで顔を上げた。 「そうですか…」 あたしの発した言葉を受けて、面接官たちの表情が一様に変化したのが分かった。 それもそのはずだ。 この事務所は「叶美」が所属しているところなのだ。 売り出し中の看板モデルのことを「死ぬほど嫌いだ」などというあたしは、きっと異端児に見えたに違いない。 「今日はありがとうございました。合格の場合のみご連絡をさしあげます」 その言葉によってオーディションの幕は下ろされた。 表参道をひとり歩く帰り道、車のクラクションがやけにうるさく感じた。 今日のこと、あたしは後悔なんてしていない。 あえてあたしは「叶美」の事務所を選んだのだ。 「叶美」に近づくために… そして…「叶美」を追い越すために… むしろすがすがしいくらいだった。
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