136人が本棚に入れています
本棚に追加
一通りの質問タイムを終えたあと、真ん中にいる面接官があたしの目を見て言った。
「最後になりますが、何かアピールしたいことがあったらどうぞ」
ふいにあたしの脳裏に「叶美」の顔がよぎった…
『…はい。あたしは「叶美」というモデルが嫌いです!死ぬほど大嫌いです!だから「叶美」を超えるモデルになってみせます!絶対になります!!』
あたしは深々と頭を下げ、キッとした目つきで顔を上げた。
「そうですか…」
あたしの発した言葉を受けて、面接官たちの表情が一様に変化したのが分かった。
それもそのはずだ。
この事務所は「叶美」が所属しているところなのだ。
売り出し中の看板モデルのことを「死ぬほど嫌いだ」などというあたしは、きっと異端児に見えたに違いない。
「今日はありがとうございました。合格の場合のみご連絡をさしあげます」
その言葉によってオーディションの幕は下ろされた。
表参道をひとり歩く帰り道、車のクラクションがやけにうるさく感じた。
今日のこと、あたしは後悔なんてしていない。
あえてあたしは「叶美」の事務所を選んだのだ。
「叶美」に近づくために…
そして…「叶美」を追い越すために…
むしろすがすがしいくらいだった。
最初のコメントを投稿しよう!