【プロローグ】

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それは太陽がにっこりと微笑むある日の午後だった。 もう少しで“お姉ちゃん”になる少女は、小学校の友だちと一緒に砂場で遊んでいた。 遠くでは少女たちのお母さんが、子どものことなど忘れるほどに、談笑に夢中である。 少女は砂場でトンネルを掘っていた。 1度砂の山を作ってから、素手で穴を掘っていく。 ゆっくりと掘らなければすべてが泡となるこの作業に、少女は真剣に、そして慎重に取り組んでいた。 「よいしょ、よいしょ・・・」 少女は、爪に砂が入って気持ち悪いなと思っても構わず続けた。 もう少しでトンネルが開通しそうなのだ。 そして、反対側から掘っていた友だちと手が触れ合う、まさにそのときだった。 「あーーーーーーー」 砂場に少女たちの叫び声が上がった。 砂の山が崩れてしまったのだ。 「も~もう少しだったのに~」 少女はがっくりとうなだれた。 もう1度つくろうよ!と言う友だちに、少女はもうやだ!と言って、ひとり水道に向かって走り出した。 爪の中に入る砂の感触に、もう耐えられなくなったのだ。 少女が大きな公園の小さな水道に着いて、蛇口をひねり手を洗おうとしたときだった。 少女の耳に甲高い声が響く。 びっくりした少女が辺りを見まわすと、5メートルくらい離れたところに、20代半ばの女性2人が向き合うように立っていた。 少女は、不思議に思ってじっと見つめる。 少女から見て右側の女性が、左側の女性に向かって何かを叫んでいるように見えた。 大変!左の人がいじめられてるんだ!と思った少女は、大人に助けを求めようと、後ろを振り向き走り去ってしまった。 水道の蛇口からは水が流れ出たままになっている。 数分後、ひとりの男が現れ、蛇口をキュッとひねって水を止めた。 その男の表情は恍惚としたものだった。
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