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あたしはそーっと奥の部屋へ向かった。
居間兼寝室に通じる扉を開けた瞬間、あたしの目に映ったのは、見慣れた頭と見慣れぬ頭が、仲良く寄り添う光景だった。
(そういうことか……)
あたしは発狂したい気持ちを抑えながら、足元に広がる下着や洋服をかき集め、ベランダに出た。
そして4階の高さから、一気に放り投げる。
風に舞いながら落下する下着たちは、妙に滑稽に見えた。
この行動の意味は、自分でもよく分からない。
おそらく無意識的なものだろう。
ベッドに並ぶ2つの頭は、ようやく異変に気づき、目を開けていた。
「ごめん」
リョウが裸のままこちらを向く。
見慣れね頭の方は、シーツで身体を覆っていた。
『…直接言って欲しかった…ちゃんと…』
もう我慢しきれない涙が、あたしの頬をすべり落ちる。
「…ごめん」
リョウはそれしか言わない。
あたしは涙を拭いながら、合い鍵を投げ付けた。
『もういい!』
あたしが、この忌まわしい空間から逃げ出そうと背を向けたときだった。
「合格おめでとう、応援してるから…」
思わぬ言葉に足がすくむ。
(今さら応援なんていらないよ…)
あたしは心の中で返事をしてから、その場を後にした。
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