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打ち合わせを終えたあたしは、ペコペコになったお腹を満たそうと、カフェを目指し、事務所から出た。
遅めのランチは、ヘルシーにアボガドサンドにしよう!と思ったそのときだった。
右手前方から、見知らぬ女性が現れ、あたしの行く手を阻んだ。
『…なんですか?』
ファンかもしれないと思ったあたしは、とっさに笑顔を作る。
「……ない…」
『えっ?』
ただでさえ小さな声が騒音に紛れて聞こえない。
「……いから……あたし……あんたを許さないから!」
急に声を荒げたその女は、鋭い目つきであたしをにらみ、そのまま走り去ってしまった。
あたしは唖然となり、しばらくその場に立ち尽くす。
そして、すぐにあの女の正体を悟った。
リョウの……
彼女だ………
あの女は、あたしを待ち伏せしていたに違いない。
その行動力、危ない目つき、どこからともなく漂う危険な雰囲気…
どれをとっても“あの時”の自分と重なって見えた。
おそらく、ブログの悪質なコメントも彼女の仕業だろうと直感する。
あたしは、カフェに行くのを止め、地下鉄に向かって歩き出した。
その身体はカタカタと震えている。
『今度は…あたしが“元カノ”になっていたんだ…』
あたしは目に見えないカルマを感じながら、足早に自動改札機をすり抜けた。
その先に見えたものは、駅の構内に貼られている「叶美」の優しい笑顔だった。
【END】
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