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もし幸せじゃないのなら、幸せだと感じさせたい。
それがこの時代にきた理由で。
二十四年は生きたなら幸せだと感じる時はきっとあったんだろう、と思っていたけどどうやらそれは間違いだったようだ。
稔麿と呼ばれたうちの探し人である目の前の人は、暖かな光など一粒もなく暗く深い悲しみの目をしている。
それに気づいたから、思わず涙がでてきたわけだし。
ああ、この人は幸せなんじゃないんだ。
そう思うと冷たくなった体がカッと熱くなって、心臓が強く脈を打ち出す。
吉田稔麿と晋作さんが何かを言い合っていたけど、それは耳に入らずうちは吉田稔麿だけを見ていた。
幸せにしたい。
幸せにしたい。
うちができることなら幸せにしたい。
ふつふつと思いが込み上げてくる。
「これがここにいる経緯は分かったけど、これの企みは分からないんでしょ? だったら馬鹿なこと考える前に処分するべきだよ」
「待てって言ってんだろ!! そいつの企みは」
「幸せにすること」
「何?」
晋作さんの言葉に続くように言葉を、沸き上がる願いを口にした。
稔麿さんの暗い目がうちに向き、それを真っ直ぐと見返す。
「ある人を幸せにしたい。それがうちの企み」
あなたを幸せにしたい。
「へえ。それって誰だい?」
首筋に触れる刃が食い込み、ちりっと小さな痛みを感じた。
でも刀なんてそんなもん怖くない。
五日間も眠っていられるような図太い神経をしているうちは、怖がるなんて繊細さは持っていない。
……吉田稔麿に会った瞬間怖いと思いはしたが、今はそんなのちっともない。
でも、怖いと思うなら……この人がこんな目のまま死んでしまうのが、とてつもなく怖いと思う。
そんなの、嫌すぎるんだけど。
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