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「誰かって……それは教えない」
言う訳にはいかない。
幸せにしたいって思う相手があなたです、なんて言えない。
それを言ったら貫くなんて信念と離れる気がして……。
それにもし勘が鋭い人なら、うちの信念の根に何があるのかを気づかれる恐れがあった。
今目の前にいる人が、死ぬ、という未来に。
「教えないと今この場で殺す、と言っても教えないわけ?」
「殺されても教えない」
「死んだらその企みは叶わないのに?」
「だから殺されない」
死んだら終わり。
確かにそうだから、死にたくはない。
でも脅されて引くような脆い気持ちでもないから、一歩も引く気はない。
逸らすことなく揺れることなく、切れ長の目を見つづけた。
晋作さんの焦る気配を後ろに感じながら、刀が首筋の皮を斬るのを感じながら、思いを貫きたいから吉田稔麿の目を見つづけた。
緊迫した静寂。
絡み合う視線。
胸にあるのはたぎる熱い思い。
脅しなんかで諦めたくない気持ち。
うちは……吉田稔麿の冷たい目を消したい。
「……分かったよ。殺さないであげる」
静寂を破ったのは意外にも吉田稔麿で、冷ややかに笑うなり刀を鞘に収めた。
殺さないであげるってことは……認められた?
奇兵隊に居ていいと、認められた?
「但し、少しでも不審な動きをすれば首を飛ばすけどね」
命の安全は認められていないようです!!!!
「それに、その体勢で言われても笑えるだけだし」
思い出させないでください!!!!
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