13481人が本棚に入れています
本棚に追加
/1911ページ
どたどたと走って小さくなっていく直の後ろ姿を見て、高杉晋作は深い溜め息を吐いた。
怪しいものを直ぐに疑う吉田稔麿に直をしばらくは会わせないつもりでいたのに、運悪く鉢合わせ、厄介なことになった。
吉田の小姓。
あいつァ、無事に生きてられっだろうか?
直を奇兵隊に入隊させた高杉は不安に思う。
「暴れ牛。あれを俺の小姓にしたのが気に食わないわけ? 顔にでてるけどさ」
「……気に食わねェよ。直は確かに身元不詳で謎が多いがよ、てめえみたいに深く疑う程じゃねェんだよ」
「自分の安全の為には疑う、というのは必要だよ」
「信じんのも必要じゃね? あの馬鹿なぐらいの真っ直ぐな目ェみたろ? あんな奴が何か企む程、頭できてねェよ」
直は馬鹿だと、そう言っている高杉に吉田は口角を上げる。
口元は笑っているのに目は笑っていない吉田の笑みは、高杉は苦手だった。
いつから……こういう風に笑いだしたのか。
「誰かを幸せにしたい、って企んでたけど?」
「そこは気になんのか?」
「その相手が奇兵隊を潰すのを願っていれば? あれはここを潰しに来たのかもよ?」
「……猫はそんなことしない」
吉田を睨みつけながら言う入江九一。
「九一はさっきから……。あれを気に入ってるんだね」
「……私が見つけた猫だからな」
「ふぅん。それで拾ってきたわけだ。猫に飽きたらず怪しい人間を。まったく九一は優しいね。でも俺はその気に入りの猫が怪しい動きを見せたら、斬り捨てるから。覚悟はしてて」
「……斬らせない」
吉田と入江の間に火花が散っているのが見えたが、怒らせたら厄介No.1、2の間に入りこむ勇気のない高杉は、ただ立ちすくんでいるしか出来ないでいた。
仲裁より自分の命が大切な高杉。
最初のコメントを投稿しよう!