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「…ッふざけんなって言ってんだよ…!!」
『…痛ッ』
近付いてきた仁にグイッと胸倉を掴まれた。
服がギュウと首が絞めて苦しい。痛い。
…仁の顔が、怖い。
「……お前、俺がどんな気持ちで…!!どんな気持ちで、お前から離れたと思ってんだよ…!!何のために抱きたくもねぇ女抱いてると思ってんだよ!!」
そう叫ぶ仁の顔が悲痛に歪む。
まるで泣き出しそうな、それくらい余裕がない表情にこっちが動揺してしまう。
『…じ、仁?…ッ、』
どんな気持ち?
何のため?
仁の言っていることが全然わからない。
こんなふうに苦しそうに顔を歪めるのも、怖い顔も、余裕がない仁の顔を見るのも全部初めてだ。
胸倉を掴んだ手はそのまま俺をベッドに押し付けるようにして乱暴な動作で動く。
その衝撃で少し噎せるけど、仁は気にする素振りも見せなかった。
「……お前、俺がいないと寂しいんだよな?」
仁の言葉に小さく頷く。
寂しい。
仁が高校に入った途端、急に突き放されたから、急に仁の態度が変わったから、……まるで母親に執着する子どものようだけど。
がらりと変わったこの環境は、仁がいない家は寂しい。
「…俺に早く帰ってきてほしい?」
―――ギシ、
そしてそのまま、仁が覆いかぶさるようにベッドに膝をつく。
『…う、ん。』
仁の影が俺の身体の上に重なり、何故かヒヤリと背筋が冷える。
「…いいよ。」
『っ、本当?』
「あぁ。和也が寂しくないように毎日相手してやるよ。」
和也、と呼んだ。
久しぶりに兄の口から出た自分の名前に喜んだけど、それは一瞬ですぐに身体から血の気が引いた。
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