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俺の朝は、いつも幸せで包まれていた。
朝、目が覚めたら隣りにはまるで猫のように身体を小さくまるめて眠る君がいて。
目が合うとすぐに逸す顔を、いつも照れて隠してしまうその顔を無防備に晒して眠る君がいて。
まるで吸い寄せられるように、手は無意識に大事なものに触れるように、その柔らかい髪を梳く。
ふわりと柔らかい髪に俺の口許もふわりと緩む。
薄く開いた唇から零れる寝息と、心地良い君の温度。
俺はまだぼんやりとした頭で、ただ、君の寝顔を飽きもせず見つめながら髪を撫でて。
君はそんなことなんて気付かずに、ただ眠り続ける。
俺は君が目を覚ますまで、その目に俺の顔が映るまで、君を見つめて。
そんな、緩やかな朝の時間が好きだった。
“…おはよ、”
長い睫毛を震わせて、そしてぼんやりとした目で俺を見つけた時の、君の嬉しそうに笑う顔が好きだから。
可愛いから。
何より、愛しいから。
“おはよ、亀。”
俺の声をくすぐったそうに聞いて、鼻先まで隠すようシーツを引き上げながら、幸せそうにまた笑う亀が、本当に愛しい、って思う。
そんな朝をいくつも過ごして、
そうやってたくさんの時間を君と過ごしてきたね。
『……、かめ…?』
でも、その君は今俺の隣りにはいない。
朝、目が覚めて俺が最初に見たのは、大好きな君の寝顔じゃなくて、窓の隙間から吹く風に揺られた真っ白いカーテンだった。
カーテンの向こうは見慣れない世界が広がっていて、ここに君はいないと俺に伝える。
ベッドの中、どんなに君を感じようと手を伸ばしても、あの心地良い体温は見つからず、君はここにいないと俺に伝える。
そこで俺は、やっと気付くんだ。
『…あぁ、』
俺に甘えるのが下手で、口では可愛くないことばかり言う君はここにいない。
『…あぁ、そっか。』
電話して、今すぐ会いたい、と言えば、
文句を言いながら、でもどこか嬉しそうに俺のために時間を作って、会いにきてくれる君はここにいない。
『…亀はいないんだ。』
亀は日本。俺はアメリカ。
そうだ、亀はアメリカにはいない。
仕事で嬉しいチャンスをもらった。
それは自分のやったことが認められたということでもあって。
自分たちの世界が広がる、きっとこれから先に繋がるチャンスでもあるはずで。
でも、それは手放しに喜べるようなことではなかった。
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