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「それ、約束してる人って、…今日お前に告ってきた奴?」
『…ぇ、』
先輩の言葉に目を見開いて、息を飲む。
知らないと思ってた?と先輩が自嘲するかのように口端を上げて笑う。
何、何で先輩、そのこと知ってるの?
先輩の目が冷たい。…何だか怖い。
「だから今日の昼休み、ここにいなかったんだろ?」
…知ってる。先輩は今日のことを知ってるんだ。
今日、隣りのクラスの奴に呼び出されて、何かと思ったら、告白をされた。
告白してきた奴は女の子じゃなくて、俺と同じ男で。
“―――…俺、前から亀/梨のこと可愛いと思ってて、”
“―――付き合ってる人がいるのはわかってるけど、どうしても言いたかったんだ。”
“―――亀/梨のことが、好きです。”
告白されて、もちろんすぐに断るつもりだった。でも、先輩のことが頭に浮かんでいたのに、その時ふとある考えが頭を過ぎったのだ。
付き合う人が先輩じゃなくて、同学年の人だったら…?
それなら受験なんて擦れ違いもないし、自分が受験の時でも相手も同じ条件だし、
もしかしたら、そういう人と付き合った方が俺はずっと寂しい気持ちにならなくていいのかもしれない。
…そんなことを考えてしまっていた。
それに、俺の気持ちは甘い響きに揺らいでいたのだ。
だって、最近聞いてなかった。先輩からの“好き”って言葉。
そんなにしょっちゅう言う人じゃないけど、でも最近は会えない日が続いていたから、尚更聞いていないその甘い響きに、気持ちが少し揺らいでしまったのだ。
“―――…返事はすぐにじゃなくてもいいから。”
自分の気持ちに戸惑う俺に、相手は何を思ったのか、そう言うとさっさと戻っていってしまい、俺はそこでしばらく立ち尽くしていた。
昼休みが終わるのを知らせるチャイムでやっと我に返り、急いで教室に戻ったのだ。
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