SOS

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『…何で、俺に薬なんて飲ませ、たの?』 そういうと、仁はまるでそれが当たり前だというようにさらりと答えた。 「何でって…。簡単じゃん。俺、亀が欲しかったの。」 『、欲しいって…。』 「そのまんまの意味だけど?」 そう言って、仁が俺の方に近づいてくる。 『え、ちょっ、待って、ストップストップ!!』 思わず後ろに下がろうとしたら、あまり言う事を聞いてくれない体は仁の鞄を蹴り落とした。 ―――バサッ、 『…あ、』 ふと、そこでさっきの違和感を思い出す。 『その鞄……、』 何かが違う。 ただ一瞬、そう思っただけ。 でもそれがすごい気になった。 鞄を見て固まった俺を見て、何を思ったのか、仁は気にしてない、というように口を開いた。 「え?大丈夫だよ。どうせ中身は財布ぐらいだし。」 財布、…だけ? 『…あれ、教科書は?』 いつも持ち帰ってるはずの、だからよく忘れて俺に借りにくる、教科書は? 「教科書?…あーそっか、ごめんね?」 『?』 謝られた意味が分からず、仁を怪訝そうに見上げると、肩を少しすくめて笑った。 「いつも教科書を持ち帰るなんて嘘なんだ。ごめんね?いつもスッカスカだよ、俺の鞄。」 『え、』 「言ったじゃん。俺亀が欲しいって。教科書借りるなんて亀と話すための手っ取り早い口実でしょ。」 『…うそ?』 「うん、嘘。…嘘ばっかりでごめんね?」 …また、嘘? 「俺さ、亀のこと知ってから、何か気づいたら目で追うようになっててさ。あー、これはもう亀のこと好きになってるな、って自覚したら、…亀のこと、すごく欲しくなった。」 そう言うと、仁は俺を挟むように両手を後ろのソファーについて、膝の上に乗っかってきた。 仁の目を見れば、冗談でやってるようには見えなくて、今度こそは本当のことなんだと、無意識に体が強張る。 …どうしよう、今の俺に仁から逃げる術が見つからない。 どうにかしないと、と抵抗しようと腕をふりあげたけど、簡単に仁の手につかまってしまった。 『…っ、』 「亀ってすげぇ鈍感そうだし。俺がどんなに頑張ってアピールしたところで、亀の頭の中の常識ひっくり返そうにもできなかったし?望みはまぁないと思った。だから、バレて亀に避けられる前に、と思って。」 『…、』 「…ごめんな?」 仁の何回目かの謝罪の言葉を最後に。 仁は唇を俺の唇に押しつけてきた。 要はキスされてる、ってことで。 『…んんっ…、』
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