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もう、逃げられない。
一瞬の希望も消え、目の前が真っ暗になった。
…と、思ったら。
「んー、もう帰ります。はい、あと10分ですよね。はいはい。」
まさかの仁の言葉に驚いて顔を向ける。
…え、今帰るって言った?
信じられない、という顔で見てたのか、仁は受話器を戻して俺が見ているのに気づくと、いつものあの顔で、にこっと笑った。
「まぁ、さっきも言ったけどここまでやるつもりはなかったし、ここで騒がれて、もう会えなくなるのも嫌だし、それに…、」
カシャッ。
『なっ…!!』
「…これからはいくらでも亀のこと誘えそうだし、ね?」
そう言って今撮ったばかりの写メを携帯の画面に映し出して見せてきた。
そこには、服を脱がされた状態の情けない俺の姿。
それが普通の写真じゃないってことぐらい誰が見たってわかる。
そんな写真と、今の言葉で、これから仁が俺に何を強要するのかなんて簡単に思いつく。
『…お前、マジ最低。』
信じらんねぇ、とこちらが睨んでるのに、仁は嬉しそうに目を細めた。
「…いいじゃん、その目。もっと俺を見ろよ。」
そう言うと、急に腕を捕らえる力がギリギリと強くなり、喉元をぬるい舌で舐められた後、歯をたてられた。
『、』
それは、まるで牙の鋭い猛獣に獲物として捕まった草食動物のようで。
今にもその牙で食いちぎられてしまいそうで、喉がひきつり、空気のような声が微かに唇から洩れるだけだった。
「これからもよろしくね、亀?」
そう言って怪しく笑う目の前の男に、俺はパンツをずり下げられた間抜けな格好で、ただただ自分の運命に愕然とするしかなかった。
下げられたズボンのポケットの中で携帯が震える。
(ああ、あの時、聖の忠告をしっかり聞いてたら…。)
…後悔したって、もう遅いのだけれど。
End
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