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吐く息が白い。
空気が凍りそうなこんな夜は、なおさら白く見える。
『寒っ…。』
思わず両手を自分の上着のポケットに突っ込んで寒さから逃れようとするけど、それはあまり意味のないものだった。
今年の冬はいつもより寒い気がする。
それは気温のせいであったり、自分の環境の変化のせいであったりするのだけれど。
一番の理由は、……認めたくはないけど、わかってるつもりだ。
あのバカがいない。
(いや、アホ?…どっちでも変わりないか。)
連絡はとってる。
でも、今、俺の隣りにはあいつはいない。
まぁ、俺たちが選んだのはそういう道だってわかってて選んだんだけど。
…仁がいない。
それだけ。それだけで今年の冬は寒いのか。…何だそれ。
時差が違う国で、今頃何してんのかな、なんて考え方はとっくに飽きた。
元気で楽しくやっていればいい、とは思うけど、俺がいなくて困っていればいいとも思う。
(…どんなだったかな、)
寒いからだろうか、温かくて大きな仁の手のひらを思い出そうとポケットの中の手を握るけど、どんなに思い出そうとしても、わからなかった。
去年は側にいる時間が少なすぎた。
昔だったら簡単に思い出せそうなことも、今では難しいみたいだ。
それが少し寂しくなって、足早に家へと向かった。
早く帰って、早く風呂入って、早く寝よう。
明日は午後からだから、少しゆっくり寝ていよう。
…良い夢が見れるといい。
俺がいなくて困って泣きそうになってる仁とか。
(あ、それ最高。)
マンションについて、エレベーター乗って、部屋の前まで来て、鍵を出してドアを開ける。
…までは良かった。
『…ぇ、』
見覚えのある、黒いムートンのブーツを自分の家の玄関で見つけるまでは。
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