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朝家を出た時はなかった。…なかったよな?
俺の家に、朝までなかったこのブーツがあるということは、どういうことかなんて、ちょっと考えれば簡単なはずで、…なのに、頭が少しもまわらない。
機能しない頭をかかえながらふと前を見たら、部屋の中の電気がついてる。
朝家を出た時は消してったよな?…っていうか朝だからつける必要ないよな?
つまり、だから、それを意味することは―――
『……じん、だ。』
そこでようやく、この頭が鈍く動き出した。
「おーおかえり。で、久しぶり。」
案の定、部屋には我が物顔でソファーに座る仁がいて、久しぶりに会うのに、まるで昨日も会ってたかのようなテンションで仁がそう言った。
仁だ。仁がいる。
『…いや、久しぶりとかじゃなくて、何で仁がいるの?仕事?』
「ん、そう。仕事で日本に用があって。せっかくだから早めに来て亀ん家来た。」
『…そう、』
「なんだよ、もっと嬉しい顔しろよなー。」
生赤西だよ、生仁だよ、とギャーギャー騒いでるのを横目に、俺は少し焦っていた。
…今会うのは、ちょっと気まずい、というか嫌、だった。
仁が連絡なしに来るのは今までだってなかったわけじゃない。
いきなり来るのも、勝手に家の中に入ってるのも今まで何回もあった。
…でも。
自分が仁のことを考えて寂しくなったり、落ち込んだりするのは、結構堪えてる時なのだ。
それがわかっているから、自分で自分に強がりを言わないと、真っすぐに立っていられなくなってしまう。
そんな時に仁に会ってしまったら、甘えてしまいそうで、弱音を吐いてしまいそうで怖い。
そんなことをしたら、あっちに戻っても仁が心配するんじゃないだろうか、そう思うと怖いのだ。
…そんな事もまた強がりで、本当は、また俺の隣りが空く時、自分はちゃんと一人で立っていられるのだろうか、そう思うと自信がない。
(どうしよう…。)
自分に会いに来てくれるのは嬉しい。
素直に嬉しいのに、何故か今はそう思えなかった。
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