暗く長く寒い夜も

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『…もう、いい。もう大丈夫。』 「そう?大丈夫?」 『うん。』 本当に、大丈夫なのだからいいのだ。 仁に会ってしまったら、今まで考えていたことなんてどうでもよくなった。 悔しいけど、本当に。 『…ありがと。』 そう言うとぱっと部屋が明るくなった。 『あ…、点いた。本当に何だったんだろ。』 そう言って離れようとしたが、…離れられない。 何でって、この目の前の男が離れないのだ。 『……じん?』 「…だってまだ離れたくないし。」 『でもこれじゃ何もできないんだけど…』 「いいじゃん。そばにいてよ。」 その声はさっきまでと違って頼りなくて、甘えてるようで、そう、まるで子どものようで。 『……じん?』 どうした、と聞こうとして、ハッとした。 俺とそう変わらない力で大きな腕が背中をまわっている。 ……そうか、俺だけじゃなかったんだ。 それがわかっただけでなんだか嬉しくなって、思わず顔が緩む。 『……ははっ、仁が温かくてゆたんぽみたい。』 「…亀は冷えてるね。」 『まぁ、さっきまで外にいたからね。』 「…俺の体温持ってかれそう。」 『……うん、ちょうだい。』 そう言って仁の目を覗くと、仁は少し驚いた顔をして、それから恥ずかしそうに笑った。 空気が柔らかく溶けはじめる。 仁はもう一度俺を自分の胸に閉じ込めた。 さっきまであんなに寒かった体がじわじわ温かい。 仁がいるだけで、こんなにも温かい。 「“……もっと仁の熱で俺をあっためて?”」 『……ふはっ、何で仁が言うんだよ。』 「え、だって今のそういう展開でしょ。」 『ちげぇーよ、俺は腹減ってんの。だから飯食いたいの。そんな展開ならねぇから。』 「えー。」 『いや、えーじゃないから。』 「……じゃあ、後であっためてあげる。」 『……っはは、よろしく。』 END
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