二人で一つ

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人間は、一度人間を嫌いになると、もう好意を持つことができないのかもしれない。 僕は、彼女に嫌悪以外の感情が持てなくなった。 彼女が話しかけきても、嫌な顔をして「うん」としか言わなくなった。 そして、全く話しかけなくなった。 それから他の奴らに彼女の愚痴をぶつけた。 …さすがに、彼女も僕の変化に気づいているようだった。 話しかけてくる回数が、少しずつ減った。 必要な時だけ、用件を言うようになった。 あの、綺麗な笑顔を見せなくなった。 僕は、もうその笑顔も気持ち悪いと思っていた。 すべてを、全身で、拒絶した。 彼女の話を無視するようになった。 少し前まで 彼女の話はすっきりしていて、上手くまとまっているところが好きだった。 ずっと、聞いていたいとさえ、思っていた。 彼女の、声が好きだった。 ソプラノの少女らしい声で、明るく、柔らかかった。 頭にキーンとくるような尖った声ではなく、包みこむような声だった。 僕は、彼女の声までもが好きだったのか。 僕は、新しくつるむようになった奴らに合わせて、一人称を変えた。 僕は、俺になった。
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