68#石田散薬

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 葉桜が男並みの剣を使うことも、そのさっぱりとした気質も知っているが、それでも葉桜には分からない部分が多すぎる。  宇都宮藩の出身ということ、先日の山南さんとの一件で幕府の巫女だという話まではわかっているが、それ以外は相変わらずだ。 「昔知り合いの医者に簡単なものは叩き込まれたと言ってましたよ。  それだけ怪我が絶えなかったから、らしいです」  葉桜は相変わらず詳しいことを俺たちに話さない。  信用されていないのではないかとも思わないでもないが、誰にでも知られたくない過去があると言われてしまえば追求もできない。 「しかし、解せないんですよね」 「ああ」 「葉桜さん程の人がこれほどの怪我をするなんて、変じゃありませんか?」  葉桜の着物を整えながら総司に言われて、俺はああともう一度頷く。 「そりゃ、こいつがそれだけ努力したって証だろうよ」 「努力?  葉桜さんが?」  総司が不思議そうに言う理由はわかる。  総司は昔から器用で努力ってのをしたことがない男だからだ。  俺はそんな総司が憎らしくもあるが、可愛い弟だとも思う。  総司の頭に手を乗せ、わしわしと撫でる。 「なにするんですか、やめてくださいよっ」  誰も知らないが、葉桜は努力型の天才だ。  早朝の誰もいない道場で稽古していることも、非番の日でも外でいつも剣を振るっていることも俺は知っている。  だからこそ、怪我をしている今は外に出さないように、目の届く場所で俺は見張っているんだ。  総司を部屋から追い出したあとで、俺は静かに眠る葉桜を見下ろす。 「恐れを知らずに振るう剣じゃねぇよな、葉桜の剣は」  そっと頭をなでると、葉桜は居心地悪ように眉間に皺を寄せた。
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