241人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫌です」
私は近藤に沖田を引き離してと目で懇願するも、当の本人から笑顔で拒否されてしまった。
この子供(沖田)をどうしてやろうかと、私は小さく舌打ちする。
「土方さんー」
我関せずといった体で書類に目を通している土方は、呼んでも私を見ない。
「じゃあ、俺の方にくるかい?」
近藤の申し出に対し、私はため息をつく。
そういう問題じゃないと言っても、わかってはもらえないだろう。
「ねぇ土方さん、そっち行ってもいい?」
私がもう一度土方に問いかけると、近藤が意外そうに目を開き、不満そうな沖田がぐっと私の髪を引っ張る。
「ぎゃっ、痛いからっ」
「どうして土方さんなんですか?」
「沖田がそーゆーことするからっ」
一瞬沖田の指が緩んだ隙に、私は飛び起きて、そそくさと土方のそばに移動する。
それは必然的に近藤にも近づくわけだけど、私は無視を決め込んでいる土方の隣に座り、寄りかかる。
「邪魔だ、葉桜」
土方の手元には書き上がったばかりと見える書類があり、よくよく読んでみれば。
「届けましょうか、それ」
「ん?」
「容保様への書状ですよね」
内容はただの引越挨拶だけど、私には良い口実だ。見張られているせいで報告にも上がれないから、容保様の具合はどうなのかとか気になってしかたない。
外へ出して貰うためにも好都合だ。
「近藤さん付きでもいいから、ね?」
どんな理由をつけてもいいから、私は容保様に逢いたい。
今どうしてるのかとか、無理していないかとかとっても気になる。
容保様は放っておけばどこまでも無理をする人だから、誰かが見ててあげなきゃいけないと思う。
でも、あの人は会津藩主で、京都守護職に就いていて、とても職務に忠義で頑固で。
具合もよくなっていないのに、こうして土方みたいに仕事している気がする。
「ダメだ」
「なんでよー」
「そんなにヒマならおまえもこれやるか?」
これと言われた別な書類を見て、私は眉を顰める。
出来ないことはないが、これは土方の、ひいては近藤の仕事だ。
平隊士である私にやらせるものではないだろう。
それに。
「やだ、そんなのつまんない」
「じゃあ大人しくしてろ」
「ケチー」
最初のコメントを投稿しよう!