67#見張り

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 土方に睨まれたので私が大人しく引き下がるかというと、そんなわけがない。  次に私は沖田の方へ向き直る。  沖田は私と視線が合うと、嬉しそうに微笑む。 「沖田」 「なんですか?」  本当に嬉しそうに寄ってきた沖田に、私は満面の笑顔で応えた。 「外に出してくれたら、真剣勝負してあげる」  一瞬心底嬉しそうな顔をした沖田が、次には困ったように微笑する。 「まて」 「それはダメ」  沖田が答える前に私は首に腕をかけられ、近藤に抱き寄せられた。  私が見上げると、近藤は穏やかな様相で焦りを隠している。 「まだこの間の怪我も完治していないのに、何考えてんのー?」 「外に出たいって考えてます」  私は素直に言ったのに、近藤に旋毛をぐりぐりと押されて痛い。  だいたい、山南との勝負の時の怪我はとっくに治ってるっていうのに、三人ともひどいと呟く。 「怪我ならもう治ってます。  なんなら見せましょうか?」  口にした途端、近藤は腕にかけた力を少し強めて、首を絞めてきた。  これはいくら私でも苦しいから、腕を叩いて降参する。 「おまえはもう少し恥じらいってもんをだな」 「あんな綺麗な切り口、ほとんど痕も残りませんって。  山南さん、しっかり手加減してくれちゃったしさー」  眉間に指を当て、ため息を吐く土方に私は反論する。  そう、山南ほどの手練れにやられると傷痕なんてほとんど残らない。  私は内臓に達するほどの深傷ということもなかったし、今あるのはすっと朱い線一筋ばかりだ。 「で、見せたらそれ持っていってもいいですか」  私がにっこりと微笑むと、三人で一斉に息を吐かれてしまった。  失礼極まりない人たちだな、と私は口を曲げる。 「総司、ちゃんと見張っとけよ」 「当然ですよ」 「食事も四人分、ここに運ばせようかー」  それぞれが背を向け、私はまた沖田の膝に戻されてしまった。 「ちょっと」 「大人しくしてくれないと、襲いますよ」 「……大人しくしてます」  理由はわからないけど、大人しくしていないと本当に沖田に襲われそうな気がして、私は抵抗をやめた。  外へ出してくれなさそうだし、仕事もさせてくれなさそうだし。  今の私には大人しく、寝るしか選択肢がないらしい。
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