68#石田散薬

2/5

241人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
 部屋の中で私は土方と睨み合っている。  そばには沖田もいるが、彼は傍観を決め込んでいる。 「口を開け」 「嫌だ」  さっきから何度この問答を繰り返しているだろうかと思いつつ、私はうんざりと土方に返す。  何故こんなことになっているかというと、土方が処方した薬を私が飲んでいないとバレたからだ。  土方が処方した薬、それは石田散薬といわれる土方自身が薬の行商をしていたときに売っていた薬だ。  別にそれが胡散臭いとかが問題なのではない。  それがとんでもなく苦くて不味いという評判が問題なのだ。 「葉桜」 「薬なら別のを飲んでるから平気ですっ」 「その薬でしたら、」  余計なことを言い出しそうな沖田に、私は慌てて飛びついた。 「あ、馬鹿沖田っ」  私が沖田の口を手で塞ぐと、沖田は何故か嬉しそうに私を抱き寄せる。 「総司、おまえ何か知ってるな」 「知らないっ!  沖田は何も知らないってばっ」  私が口を塞いでいるから話せない沖田の代わりに、返事をする。  だが、土方は眉間の皺の数を増やして私を睨みつけてくる。 「……葉桜」 「沖田も余計なことを言うんじゃないっ」 「別にいいじゃないですか、言っても」 「良くないんだって。  だって、あの薬は――」  ふっと背後に気配を感じた私は、強く身体を強ばらせた。 「あの薬は、の続きは何だ、葉桜」  低い声が耳元で聞こえるのが怖くて、振り返れない。  思わず強く沖田の着物を掴んで、私は俯いていた。 「葉桜?」  首筋に土方の吐息を感じて、さらに私が身体を強ばらせると、首に冷たい手がかかった。  沖田の身体へと引き寄せる手――つまり、沖田の手だ。 「だめですよ、土方さん。  葉桜さんをいじめちゃだめです」  うなじを撫でる手に、私は思わず小さな息を漏らす。  それは沖田の着物に吸い込まれてすぐに消えた。 「葉桜さんをいじめていいのは僕だけです」  沖田の言葉を反芻してすぐ、私は沖田の身体を強く突き飛ばした。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加