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「はっ!?
何言ってんの、沖田っ!」
「葉桜さんを苛めていいのも、泣かせていいのも僕だけなんですよ」
「誰がいつ沖田の前で泣いたよっ。
私は別に誰かの前で泣くなんて、そんな……こと、は……」
背後から誰かの手が伸びてきて、私の首にかかる。
「ほぅ、総司と葉桜はそんな仲だったのか」
「ひ、土方、さん……!
誤解っ、誤解ですっ!」
耳元でささやかないでと言葉にならない声で悲鳴のように訴えるが、私の願いは聞いてもらえないらしい。
「葉桜」
「み、耳は、やめ……っ」
「口を開けろ」
とにかく早く開放されたい私は素直に口を開いた。
そこに丸薬が放り込まれるや否や、私はさらに悲鳴にならない悲鳴を上げた。
悲鳴にならなかったのは、すぐさま口を大きな手で塞がれたからだ。
必死に私の口と鼻を抑えている相手、土方の身体を叩いて合図するが、一向に外してくれない。
ごくん、とやっと飲み込んでからようやく土方は私を開放してくれた。
「……苦……っ、不味……っ」
涙目で膝を落としたまま私が睨みつけると、土方は水筒を差し出してきた。
私はそれを奪い取り、すぐさま口に淹れる。
勢いがつきすぎて口から何度かこぼれたが、私は構わずに水筒の中身を全部飲み干した。
最後の一滴まで飲み干してから、私は水筒を投げ捨て、土方に詰め寄る。
「なんてこと……っ」
後の言葉を私は続けられなかった。
唐突に、がくりと私の四肢の力が抜けてしまったからだ。
私の四肢の力が抜けてしまったのは急に眠気が襲ってきたからで、目の前の土方の様子から察するに薬に何か仕込まれていたとしか思えない。
「大人しく眠ってろ、葉桜」
ひどい、と口にできる余裕もなく、あっという間に私の意識は暗転した。
* * *
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