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やり手の父と、優しい母、何の不自由もないくらし。
なんて退屈な日常。
それが僕の世界だった。
自転車の上で揺られながらくわえた食パンがちぎれないように、慎重に鞄から真壁にもらったメモを取り出す。
(やっぱ好きだわ…)
退屈な世界で、唯一退屈しない存在、それが彼女。
こうして必死に自転車を漕いでいるのも、結局は顔が見たい一心でなのだろう。
そんなとき、
「吉田!」
見覚えのあるポニーテールにを弾ませて近づいてきたのは、
「真壁!?」
「よかったぁー、今日一緒に学校行きたくてさ。待ってたんだ。」
「うそ!?何時からいたの?電車とっくの間に行っただろ!?」
「20分くらいかな?吉田がおそいから来ないかと思ったよ。」
嫌な顔ひとつせず、茶色い瞳が輝いていた。
まるで待ち遠しい飼い主に出会えた子犬のように、真壁ははしゃいでいた。
(俺をまってたんだ。)
思わず抱き締めたい衝動にかられながら、おさえこんだ気持ちが
「ありがと。」
の一言をを、裏返らせた。
動揺する僕に、真壁は
「早く行こう!遅刻しちゃうよ!」
っと、笑った。
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