*001* コウタ

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やり手の父と、優しい母、何の不自由もないくらし。 なんて退屈な日常。 それが僕の世界だった。 自転車の上で揺られながらくわえた食パンがちぎれないように、慎重に鞄から真壁にもらったメモを取り出す。 (やっぱ好きだわ…) 退屈な世界で、唯一退屈しない存在、それが彼女。 こうして必死に自転車を漕いでいるのも、結局は顔が見たい一心でなのだろう。 そんなとき、 「吉田!」 見覚えのあるポニーテールにを弾ませて近づいてきたのは、 「真壁!?」 「よかったぁー、今日一緒に学校行きたくてさ。待ってたんだ。」 「うそ!?何時からいたの?電車とっくの間に行っただろ!?」 「20分くらいかな?吉田がおそいから来ないかと思ったよ。」 嫌な顔ひとつせず、茶色い瞳が輝いていた。 まるで待ち遠しい飼い主に出会えた子犬のように、真壁ははしゃいでいた。 (俺をまってたんだ。) 思わず抱き締めたい衝動にかられながら、おさえこんだ気持ちが 「ありがと。」 の一言をを、裏返らせた。 動揺する僕に、真壁は 「早く行こう!遅刻しちゃうよ!」 っと、笑った。
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