発見

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早々に寝てしまった亜美が羨ましい。 今日は9時には眠っていたと思う。 寝付きが良いのは子供の特権だ。 私は、愛娘を責めているわけではないけれど。 心の中で言い訳をしつつ、八つ当たりみたいでなんだか情けないと思った。 すごく、羨ましくなるのだ。 愛らしくて、満足げな寝顔が。 心の中だけに汚い感情をなんとか抑える。 私にとって、彼女の存在はとても大きい。 それは、証だから。 私がここにいて、出会って、確かに生きた証拠だから。 この、2人で暮らすには大きすぎる家、一生働かなくても贅沢に暮らせる財産、そして、亜美。 多いようでいて実は少ない少ないようでいて、十分すぎる 私の、すべて。 これから先、私の所有物は増えないだろう。 私は、働かない。 もうそんな気力がないのだ。 つまり、テレビなどで攻められる『働かない若者』なのだと自覚する。 言い訳になるが、私は必要がないからだ 亜美が好きなことができるお金がある。 大学を卒業しても有り余るだろう。 私自身は、無趣味だからお金を使う機会もすくない。 それに、家からなるべく出たくない。 私の存在が許されるのは、あの人が残したこの家だけのような気がして。 被害妄想かもしれない。 もう忘れてしまったけれど、学生の頃に「すべての国民は守られる」というニュアンスの憲法を習った気がする。 わかると思うけれど、私が言っているのはそんな決まりが通らない領域の話。 つまりは、心の中とか小さな小さな人間関係の軋みとか。 私は、マイナス思考がとても得意だから、外に出ると泣きたくなってしまうのだ。 けれど、家で自給自足が出来るはずもなくて、まだ幼稚園児の亜美の生活を守るために私は外へ踏み出す。 人間の住家で、恐る恐る必要最低限をする。 すぐに逃げ帰るとき、私は生きた心地がしない。 私は化け物だとその沢山の視線が嘲笑っていて、悔しくて、ものすごく疎外感を感じる。 亜美には、人間になってほしい。 だから、人間と交流して、こんな化け物のことを忘れて幸せに生きなさい。 人間として死んでいったあの人は、それを望んでいるだろう。 慣れない掃除をすることさえなんだか無意味なことに感じて、ソファーに身を横たえた。 息をすることさえも面倒臭い。
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