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不意に動いた。
ゴミだと思っていたそれが、動いたのだ。
風はなく、木々は張り詰めるように静かだ。
この閑静な住宅街の夜は、それの動きをより浮き上がらせた。
目の錯覚ではない。
ゴミだと思い込むには、私は視力が良すぎた。
わかってしまった。
動いて、角度が変わり、黒以外の色が見えたのだ。
驚いた
驚くということを思い出した。
とてもとても驚いた
時折覗く、黒以外の、
温度の色
肌の、色。
雨で黒と同化しているけれど、はっきり見えた。
人間以外に肌の色を持ち、動くものなんてあるだろうか。
ありえないだろう。
何かの、間違いでは。
あれは人間らしい。
いや、人間だった。
確信を持ち、今までぼんやりとしていたそれの輪郭が、急に鮮明になった。
なんだか背筋が寒かった。
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