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仲間に言われて、机に突っ伏していた入澤は、怠そうに身体を起こし、ゆっくりと指差された窓の外を見下ろした。
本来は通学用の自転車を停める為に設けられた駐輪場。
本来の存在理由は無意味と化し、単車やらスクーターやらが当たり前のように停められていたその場所。
入澤は、そこに人影を見つけた。
「アレのこと?」
駐輪場に立つ一人の姿をその瞳に捉えながら、入澤は聞き返した。
「そうそう。可愛い子ちゃんだろ?告白されっかもよ。」
どうするー?と、愉しそうにヤラシイ笑みを浮かべる仲間。
(どうするも、こうするもねぇって……。)
指差された人物は、確かに遠目から見てもはっきりと整ってると分かる顔の造り。
(悪くない……。)
そう思いながら、入澤が口を開く。視線は、あの駐輪場のやつに囚われたまま。
「確かに、悪くねーよ?」
「だろ?」
あんなのに告られたら、迷うことなく喰っちまうね。
(でも……。)
可愛い子ちゃんと呼ばれたソイツは、物騒な面して、物騒なものを振り上げる。
ガシャーンと、思わず耳を塞ぎたくなるような音が辺りに鳴り響き、入澤がハッとした頃には時すでに遅し。
そいつが振り下ろしたのは金属バット。
そして、標的にされたのは、紛れもなく入澤の愛車のゼファーだった。
椅子をガタン!と鳴らしながら勢いよく立ち上がった入澤。
その拳が、力の入り過ぎで震える。
「…あのやろっ…!金属バットなんて持たれたら、可愛いもクソもねぇだろ…。」
入澤は、窓の外を見ながら、小さく呟いた。
明らかに、告白だとか、そんなあまーい雰囲気じゃなかった。
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