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冷たい風が、物寂し気に秋の音を奏でている。
はるか高くまで澄み渡った秋空の下、彼女はベンチに座っていた。
覚えている、このベンチで、彼女とたくさん話をした。
あの頃の君はずいぶん思いつめているようで……。
僕は君の、力になれたのかな。
ベンチに座った君はゆっくり、穏やかな口調で話し出す。自分のこと、最近のこと、未来のこと、そして、僕のこと……。
周りには誰もいない。もしかして僕に、気がついているの?
ねえ、大好きだよ、と。
ぽつりと彼女は呟いた。
本当に、愛おしそうに。
涙が、込み上げてきた。
止められなかった。
ありがとう、こんな僕を、今も好きでいてくれて。僕も大好きだよ。言うまでもない。本当はもう少し、君と……。
少しぼやけた視界に、立ち上がる彼女が映った。
ねえ、聞こえてる?
私は、大丈夫よ……。
やっぱり少しぼやけたままの彼女は、そんなことを囁いた。
聞こえてる。聞いてるよ。
そうだね、君なら心配しなくても大丈夫。
僕がいなくなっても、うまくやれている。
これから君がどう変わろうと、僕はずっと君を想っているから。
だからどうか、幸せに生きて。
――さようなら。
僕は風になり、彼女を明日の方向へ送り出す。強い風に背中を押され、君は速足で歩き始めた。
そして最後に僕は、大好きな君の、穏やかな笑顔を見た。
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