桜雲

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  桜紅葉を見ていた。 春は咲き乱れていた桜も、今は秋色に紅葉している。 だんだん冷たくなる風の中、私はベンチに座っていた。 彼との思い出の、残る場所。ここで二人、たくさん話した。 何気ないことであなたは覚えていないかもしれないけれど、私は本当に、救われた。 あの時を思い出して、私は話し出す。 自分のこと、最近のこと、未来のこと、そしてあなたのこと……。 ふと彼がどこかに居るような気がして。 ねえ、大好きだよ。 呟いてはみたけれど、急に恥ずかしくなって私は立ち上がる。 ねえ、聞こえてる? 私は、大丈夫よ……。 一度だけベンチの方を振り返って、そう言った。 その囁きは空気にとけて、秋の風となり消えてゆく。 大きく空気を吸い込んで、まぶたを閉じる。 そのとき、あたたかい風が強く吹いた。 全く、秋らしくない風。 柔らかく、優しく、まるであなたのような。 私は少し笑顔になって、足を速めて歩き出す。 あなたにはない明日へ向かい、立ち止まらずに進んでく。  
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