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そして、その試みは成功した。自分の理想とする人間が、目の前で静かに息づいた。
世界が少し、広くなった。
彼女との生活は、更にこの家での生活を充実させた。
今ならはっきり分かる。あの正体不明のもやもやが、孤独から生まれた寂しさなのだと。
彼女と生活してから数日が経った頃、ふと家の中を見渡して、あることに気づいた。
あの今洗ったばかりのコップ、壁にかかっているその白い正方形の時計、そして今履いているこの群青色で無地のスリッパ、それらは全て不完全な物、ということに。
有り得ない。何でこんなものを、完璧だと思ったのか。
コップはよく見ると歪みがあり、時計は右上の角が少し欠けている。極めつけは、このスリッパ。汚れもあり、左右非対称だ。こんなものを履いていたのかと思うと、ぞっと鳥肌が立った。
すぐに、捨てよう。
急いで、足を消毒しよう。
頭の中はその言葉だけがぐるぐると回っていた。
あれからまた半年ぐらい経った。その頃になると、この世界はこざっぱりしたものになった。
不完全な物を見つけては、壊し、捨ててきたからだ。だから、家の中の物は段々と少なくなった。しかし、それに比例するように、この世界はより完璧に近づく。
だから毎日毎日、家の中を見て周り、不完全なものを処分している。
しかし一通り処分したと思っても、数日経つとまた現れる。だから、ここ最近は、そのパトロールに忙しい。
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