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亮は人混みの中を掻き分けて、目的もなく前へ進む。早く先程の場所から離れたかった。
亮も感じ取っていた。竜也を助けた金持ちの学生が、普通の奴じゃないと。
隠しきれない黒い存在感に、気を抜けばこっちが飲み込まれそうだった。
( 一高生のくせに、なんてオーラだしてんねん… )
あの白い制服は確かに天下の一条学園のものだ。
純白を示す白だが、あいつの着てた白は血で所々塗られた様に見えて、完全なる支配者の白だった。
( あの顔はどこかで見たことある。何日か前に智に見せてもらった… )
『………っ!』
黙って引っ張られていた竜也が、思い切り亮の腕を振り払った。
鞄からまたメモ帳を取り出して、眉間に皺を寄せたまま殴り書く。
『なんであんな風に失礼な態度とったんだよ!』
「失礼って、なんもしてへん」
『適当だった!俺もちゃんとお礼言ってない!』
亮は頭を抱えたい気分だった。
確かあの時竜也もいたはずなのだが、と。
竜也を助けたやつが、あいつじゃなかったらもっとちゃんとお礼を言って連絡先まで聞いたかもしれない。
「ええか竜也、あいつに深入りしたらあかん。」
口が『なんで』と動く。
( こいつほんまに覚えてへん… )
「あいつは紅蓮で黒獅子や」
大きく目が開かれる。
竜也は心の動きが手に取るように分かる。
「智から前に写真見せられたやん。赤獅子の片割れ。
近々紅蓮とも抗争が始まる予定やから深入りすんな。街で見かけても無視れ。ええな。」
渋々ながら竜也は頷いた。
信じられなかった。あんな好青年に見える彼が、夜の街を荒らしまくる黒獅子だなんて。
そんな竜也の気持ちを、亮は感じ取っていた。
( 俺だって信じたないわ… )
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