晩夏

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夏の暑さはまだ地上にずるずると居座り続けている。  目を醒ますと、アパートの窓から吹き込む風は生暖かく、照りつける光を反射させるようにアスファルトを陽炎が包み込んでいた。  もう夕方近いのか、目が焼けるような錯覚を起こし、窓から視線を外す。東の空だけは重暗くなり始めていた。 夕立が来るに違いない。  ぼんやりと、頭の隅でそんな事を考えながら、遠く、微かに聞こえる蜩の声に、僕は夏の終わりの倦怠感を、紫煙と一緒に吐き出す。  少しは涼しくなるのだろうか。点け放していたテレビは、見ていたバラエティー番組からニュースへと変わっていた。ここ最近、連続して発生しているらしい殺人事件が報道されていたが、プライベートにまで社会の某かを持ち込みたくはない。リモコンを叩くようにして、ニュースを切り、煙草を揉み消す。
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