晩夏

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 休日の夜に、予定が何も無いのは少し寂しいものだ。誰か同じように暇を持て余す奴は居ないかと携帯を開くと、待っていましたと言わんばかりに、6畳間に着信音が鳴り響く。 「もしもし…」  見覚えの無い番号に、恐る恐る電話を受けると、相手は2~3日前にバーで声をかけた女、智美だった。何てタイミングだ。  まくし立てるように話す女だったな、と朧な記憶を辿る。こちらが話さなくても済むのは楽だったが、番号を交換したのは間違いだったかもしれないと、少し後悔した。  彼女の話は案の定止まらなかった。何本目かの煙草に火を点けて、どちらともつかない相槌を打ちながら聞き流し続けていると、智美が唐突に提案してきた。 「ねぇ、電話も何だから、今から会おうよ」 何も考えずにただ聞いていた僕は、一瞬、彼女が言った言葉を理解できなかった。智美はそれを察したかのように、矢継ぎ早に、場所はこの間と同じバー、時間は夜八時…と、有無を言わさず、あっと言う間に決定していった。  更に、 「それじゃあ後でね」 と、一方的に電話を切ろうとしたので、僕は腹立たしさを丸出しにして、それを遮った。 「待てよ、僕の都合とか、無いのかよ」 少しの間があった後、受話器の向こうで智美が笑ったような気配がした。 「来ても来なくても、待ってるから」 そう言い残して彼女は電話を切った。  急に静かになった室内に、智美の、少し含みのある声に変わって、開け放した窓から雨音が響き始めていた。
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