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クルー・フォックス学園は、由緒正しい、歴史深い名門校である。八歳から十七歳までの男子生徒が通っている。
元々は王室に仕える役職を育てる学校だったが、今ではそんな出世を果たせるのはほんの数人。ロンドン内で似たような有名校を挙げていくと、むしろうちは単に歴史深いというだけで、他に頭の良い学校はいくつもある。
僕は、どこにでもあるような中流家庭に育った。学費は少し高いが箔が付くだろうと入学させてくれた両親の誇りとなるよう、特に目立った悪ふざけをすることもなく、上位の成績を何とかキープ。先生達からも信用され、今年の秋からセイル寮で下級生を束ねる役割を任されることになった。
仕事としては夜9時半の見回りがメインで、あとは掃除当番がちゃんとやっているかを見たり、寮内に朝礼に遅れて来たのが居たら注意したり……。要は寮生活を正しく行う為に、生徒を監視するというものである。
一方、寮長の仕事は、毎回夕食時にお祈りの言葉を述べたり(カトリック学校というわけではないのだが、この辺りが歴史を持っているということだろう)、寮のイベントを仕切ったり、まぁ寮のトップ、花形といえる存在だ。副寮長も居るが、主な仕事は寮長が休みの時に替わるとか、一人でやり切れない仕事を一緒に手伝うとか、それくらいだ。イベントなどは監督生も一緒に協力することもある。
監督生はどちらかというと先生に好かれる(まぁ下級生に言うことを聞かせないといけないから生徒の信用も必要だが)タイプで、寮長は生徒全体に好かれるタイプが選ばれるだろう。僕は花形という柄ではないし、このポジションに十分満足している。
「そうか、監督生は一人で部屋が使えるんですよね……いいなあ」
ストレートの髪の方が言った。何というか、聞き取りやすい話し方をするやつだと思った。先輩にも好かれそうだし、友達が多そうだ。
巻き毛の方は内気そうだが、どこに座ればいいのかと催促するように僕を見るあたり、意外に気が強いのかもしれないと思った。
「誰か訪ねて来なければつまらないだけだよ。悪いがベッドに腰かけてくれるかい」
一人部屋なので椅子はひとつしかない。ベッドより少し高い位置になってしまう椅子に自分が座ることにして、僕は二人の顔を笑顔で見た。
「それで、お願いっていうのは何かな」
口を開いたのはストレートの髪の方だった。
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