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紙吹雪が舞っていた。
天を覆って舞い散る色取り取りの欠片が、人々の歓声と一緒くたになって渦を巻く。
それは人工対流の風に吹き上げられ、煌めく光の粉をたよたわせて、漫然と輝くレイヤードの空に駆け昇ってゆくのだった。
右、左。
右、左。
ほとんど呼吸と化している歩調の掛け声を口中に唱えながら、グリーブ・リーブは目だけ動かして沿道の群衆を視界に入れてみる。
小さな手に軍旗を握った幼児、ぴんと背筋をのばして敬礼する在郷軍人らしい老人。
人垣から身を乗り出してハンカチを振る女は、整然と行き過ぎる隊列の中に恋人を見出だしたのだろう。
リーブはすかさず左右に目を走らせ、バカな新兵が女に手を振り返したりしていないかチェックする。
見える範囲に、行進を乱す不心得者はいなかった。
耳からうなじまでを覆う鉄帽をかぶり、第二種戦闘軍服の肩に重力下仕様のライフルを担う兵士たちは、誰もが緊張で強張った顔を正面に据えている。
右、左。
右、左。
一糸乱れぬ歩調を確かめた。
リーブ:
特訓の成果はあったな
とリーブは密かに安堵する。
今作戦に参加する兵員のうち、徴兵で集められた新兵は半数近くに上る。
文字通り右も左もわからぬ彼らに基本動作を教え込み、閲兵に堪える程度に鍛え上げる仕事は、今も昔もリーブたちベテラン下士官のものと決まっていた。
真新しい士官用マントをたなびかせる新任の小隊長を含め、どうにか仕上がった自隊の様子に満足したリーブは、延々と連なる隊列の向こう、大通りの終点に聳える巨大な建築物を見上げてみた。
かつてジオン公国と名乗ったときの首府、ズム・シティ。
今もなお威容を体現する公王庁舎は、杯に似た構造物の天辺に三本の尖搭を生やし、全体に複雑な面構成を施された特異な高層建築物で、正面からは髪を逆立てた人面ねように見える。
この歴史的建築物の中で、かつてデギン・ザビが居座った部屋で会議が行われていた。
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