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その瞬間、
時が止まった様な気がして
2人の瞳が確かに合った
柔らかそうな茶色の髪が秋の乾いた風になびいて
大きなアーモンド型の瞳
その大きな黒の中に引き込まれそうな深いものを持っていた
時が止まった、というより
見とれていた、という方が正しいのかもしれない
自分の心臓が確かに強く打って
何か暖かいもので胸がいっぱいになった
瞳が合ったまま、
動かなかった。
否、その小宇宙を込めたような瞳に捕らわれ
動けなかった。
そして、その人は
涙の伝う頬で言った
『‥くろ、だ‥さん‥』
反射的に右手を伸ばしたら
空を切ってその涙に触れることは無かった。
自分の名前を呟いたかと思えば
その人は走り去ってしまった。
自分の小さな“こころ”というものに残ったのは
確かな何かの蕾であった
確かにあるはずなのに
それが何の蕾であるか分からずに
溜め息をついた
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