旅立ち

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市場の片隅に人だかりができている。 時折、「おぉ!! わー!!」という歓声があがり、人々の興奮が見て取れる。 人だかりの中心には一本の木が生えており、根元に小男が傘を深々と被り腰掛けていた。 男の前では2匹の猿が両手に盾と剣を持って舞踊を舞っていて、2匹の猿が剣をぶつけ合うたびに歓声があがっているのである。 人だかりの中に頭ひとつ飛び抜けた長身の男が立っていた。 周りの人だかりは、ほとんど陽に焼けた褐色の肌をしているのに、長身の男は雪解けの雪ような白い肌をしている。 髪は漆のように艶やかで、まつげは長く切れ長の目、体も細く手足が長い。 パッと見ればまるで女と見間違えてしまうような美しい容姿であるが、よく見ればその白い肌の下には野生の獣のようなバネが眠っているのが見て取れる。 その男は歓声をあげるでもなく、猿回しを眺めてはいるが意識はまるでどこか遠い場所を見ているかのようだ。 しばらくすると長身の男は振り返り、周りの人だかりを全く気にするふうでもなく、しっかりした足取りで人だかりから出て行った。 男が進もうとする方向の人々が自然に避け、道ができているのである。 猿回しの小男は傘のつばを少し持ち上げると、出てゆく長身の男を見てニヤリと笑った。
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