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長身の男が王宮の入り口までやって来ると、いきなり巨大な狼が飛びかかった。
男は避けもせずに狼の巨体を受け止めると、頭をなでる。
「タージ。待ったか?」
タージと呼ばれた狼は尻尾を振り、男の顔を舐めている。
瞳が宝石のルビーのように赤く真っ白で美しい毛並みをした狼は、二本足で立ち上がると長身の男よりさらに大きい。
タージは颯爽と王宮の中に入って行く長身の男の横にピッタリとくっついて行く。
「シッダールタ様、また外出されていたのですか! 王に堅く禁じられているはずです!」
背後から30代半ばの男が長身の男を呼び止めた。
「悪いなキジ。こんなヒマな王宮でただ死を待つような生き方は俺にはできないんだよ」
シッダールタは振り返ると、悪びれた様子もなくキジに言った。
キジと呼ばれた男はシッダールタ程の身長ではないが一般的には長身の部類に入り、少しウェーブのかかった黒髪の下から凛とした黒の瞳がのぞいている。
「王が心配されています。戻り次第王室まで来るようにとの仰せです」
キジは呆れたように言った。
「王は心配しすぎなのだ。人間の人生などただでさえ短いのに更に縮めるだけだぞ」
シッダールタは話しながらさっさと歩き出した。
「親が子供の心配をするのは当たり前の事でございます」
「王は私の本当の父親ではないぞ」
「そんな事を仰ってはなりません。誰かが聞いていたら大変な事になります」
キジは小声でシッダールタを制した。
王室の前に着くと、扉の前に立っている2人の使用人が大きく扉を開いた。
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