序章・赤と記憶

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 それは、僕がだいたい16歳ぐらいの時の記憶だ。  赤。  目の前が、僕の周りが、世界の全てが、赤く染まっている。  それもただの赤ではなく、もっと黒っぽい、そう、血の色のような赤だ。  赤というよりは紅に近いかもしれない。  それ以外には何もない、ただただ赤い世界が目の前に広がっていて、その真ん中で僕はただぼーっと、何も考えずに立ち尽くしている、そんな記憶。  なんでこんな記憶が僕の中にあるのか、この赤はいったい何を意味しているのか、そもそもなんで自分のことをよく鏡などで確認していないのに16歳ぐらいだと分かるのか。  たくさんの疑問があるが、どの疑問にも明確な答えは浮かば無い。  ただ、その記憶が絶対に忘れてはならない、とても大切な記憶だということだけは断言できる。  そして、この記憶がこの村の天狗様信仰に繋がっているということも。  理由も根拠もないけれど、絶対に忘れてはならない、とても大切な天狗様信仰に関係した記憶。  ときおり夢にまで出て来るこの記憶の意味を、僕が知ることになるのは、まだ少し先のことである。
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