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「では、今一度私達の仕事内容をお伝え致しましょうか」
ニット帽の男が、落ち着いた声調で話し出す。
「私達は、この荒んだ世の中を良くする為に集まった精鋭なる三人なのです。これから世間に出て行く子供達が絶望して生きないよう、全身全霊で背中を押していくのです。
詳しい仕事内容は――後ほど。それよりまず、貴方達ご夫妻に確認することがあります」
「か、確認? ……どうぞ」
髭をいじる手を止め、亀夫は促す。
「もしかしたら、私達が全力で背中を押すあまり、対象の子供は脊髄が故障したりするだとか、後遺症を伴う危険性があります。それでもよろしいでしょうか?」
「脊髄が故障!? そ、そんなバカなこと」
「ああ、あくまで、比喩ですよ。……ですが、脊髄が壊れる――つまり、対象の子供が普通の生活を送れなかったり、その家族が崩壊したりするかも、知れません」
圧力のある声に、思わず亀夫は押し黙った。妻の亀子は、眼鏡ごしにおろおろと目玉を走らせる。
「まあ、そんなすぐに決定しなくてもよろしいですよ」麦わらの男が優しげな口調で呟く。「期限は明日の夜八時。ここで、またお会いしましょう」
そうして、三人組は席を立った。野球帽の女が、亀夫にそっと名刺を渡す。
『いつでも心にメルヘンを! 素敵で無敵なメルヘン屋さん 折原業者』
池袋の情報屋みたいな名刺だった。
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