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亀井夫婦は、帰宅して話し合っていた。ただいまの時刻は夜八時。ちょうど、あと二十四時間以内に決めなければならない。
しかし、そもそもこのような仕事、頼まない方が得策なのかもしれなかった。
彼らには小亀という名の一人娘がいるのだが、大切なその子の将来を怪しげな三人組に預けて良い筈がない。
――だが、亀井夫婦には願いがあった。どうしても、我が子に希望という心を与えてやりたかった。
もうすぐ中学生になる小亀は、去年溺愛していた犬が亡くなった為、今ではずっと部屋に引きこもったままなのだ。
そんな子に、メルヘンというおかしな名だとしても希望を与えたい……というのは建前で、本当はただ単に世間体が酷く大事なのであった。
引きこもりの娘を持っていることなど、なんの得にもならない。これでは結婚もできず、自分達の老後がひたすら不安なだけであった。
どうにかして部屋から出させて、普通の女の子に戻らせたい。そう思っていた時に、あのおかしな三人組の情報を得たのだ。
亀夫は、重々しく言い出した。
「もし、あの三人組に任せて失敗したとしたらどうする?」
亀子は溜息混じりに返す。
「たしか、普通の生活に戻れなくなるんでしょう? 今でさえ普通じゃないのに、嫌だわそんなこと」
「そうだよなあ。……だが、このままじゃ変わらないんだ」
二人は必死に考え、意見を交わし続けた。一時間程話した末、娘の部屋の前へ質素な夕飯を届けに行く。そしてまた、二人は結論を導くべく話し続けた。
二人は、今日が娘の誕生日だということを忘れていた。
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