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――同日の同刻、亀井宅に引きこもる小亀は違和感を覚えていた。
もう八時を回っているのに、夕飯が部屋の前へ置かれないのだ。両親が仕事に出かけているのかと思ったが、第六感が何かを告げている。
脇の下を、氷のように冷たい汗が伝った。
何か、自分の見知らぬところで不運が起こっているのではないかと疑った。
だが、確かめようもない。小亀は、部屋を出る一歩が踏み出せない。
明日になれば、帰ってくるだろう。小亀はそう思い、もぞもぞと布団へ潜った。しかし、中々眠りにつくことができない。どれほど瞼を閉じても、夢の中へ入ることができなかった。
小亀は仕方なく上半身を起こし、扉の方を見詰める。
かれこれ半年、この部屋から出ていなかった。愛犬を失った悲しみもあったが、それ以上に、両親が自分のことをそれほど愛していないことが分かったからだ。
小亀は生まれつき、人の心情に敏感な人間だった。
親が自分をよく思っていないことを感じるのは難しくなかったし、自分が引きこもったことで更に嫌悪されているのも知っていた。そしてその親心に反発してしまい、部屋から抜け出せずにいたのだった。
――どうしよう。もう、意地を張るのは止めようか。
小亀の心に、一筋の光が見える。同時に、亡くなった犬のことが思い出された。そして、愛犬に、背中を押された気がした。
小亀は、我知らずフラフラと扉へ近付いていた。愛犬に後押しされ、半年の意地を、今崩そうとしている。
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