黒猫ととある少女Cの話

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ビチャリ、と生々しい音がした。短い悲鳴と機械の振動音は、既に闇夜に飲まれて跡形もない。そこには赤い海と小さな首無しの死体が転がっているだけだった。正確に言えばただの肉塊というかタンパク質の塊に近いが、時折見える青い服の破片がそれを人間に見せていた。夜の闇は果てしなく、猫は姿を消していた。 「貴女は本当に美しいわねぇ」 赤い男がそう言った。言葉遣いは女のそれだが、声は男のそれだった。赤いチェーンソーを担いだ赤い男は、赤い何かをその左手に抱えていた。 それは少女の頭部であった。鎖骨から少し上を境に、少女の頭部は本体からすっぱりと切り離されていた。驚いたように見開かれた青い眼も、金の絹糸のような髪も、今ではすっかり赤色に染まっている。男はそれが嬉しくてたまらないようだった。 「チェルシーチェルシー、青い眼のチェルシーちゃん」 男、黒猫は町外れの墓地にたどり着いていた。先ほどの興奮はすでに冷めていたが、気分は上々だった。いつの間にかチェーンソーは姿を消し、そこにいるのは黒猫と少女の首のみ。チェルシーとは少女の名前であろう。黒猫は普段、人に名前を聞くことなどまずない。聞いても無駄だからだ。しかし、彼は街で花を売っていたこの少女がチェルシーであることを知っていた。歩いていたら聞こえてきたその名前。見れば名を呼ばれた少女があどけなく笑っていて、その笑顔は黒猫の性的サディズムを刺激するのには十分だった。 「ねぇチェルシーちゃん。あなたは素敵な顔をするのね。あたしそういう恐怖におののく顔が大好きなの。嫉妬しちゃうわ。笑顔も素敵だと思ったんだけど、やっぱりこういう顔が一番ねぇチェルシーちゃん。貴女は赤が似合うのねぇ」 墓石に腰を下ろし、少女の頭部に一人延々と語りかける黒猫の姿は恐ろしく、そしてとても美しかった。彼は幼い子供に似た残酷さを持ち、ナルシストな性格に違わぬ美しさを持った男だった。黒猫。赤髪のジェイソン。少女の髪をなでる殺人鬼はニコリと笑って、 「飽ーきた、」 少女の頭蓋骨を粉々に砕いてしまった。 翌朝、少女の本体と頭部はそれぞれ発見され、赤髪のジェイソンの指名手配がまたひとつ増えるだろう。黒猫は気まぐれに拾った青い少女の目玉を、パクリと銜えて咀嚼した。 夜の闇は未だ深く、猫はどこかに消え失せた。 20100529 訂正
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