1 最前線と元日本兵

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ヤン伍長が小銃を木崎二等兵に向けようとしたが、カン・ソンギ上等兵が、これをとめ 「伍長、もう偵察は十分でしょう。大隊に戻って報告しましょう。」  と、その場を落ちつかせたのだった。  大隊へ戻る帰り道、私はさっき目にした光景にショックを受けていた。日本の植民地だった頃、私達は日本人から数々のひどい事をされ続けてきた。だが…それと変わらない事を北の軍隊もやっていた。そして「同じ朝鮮人」という事実を、今私の前を歩き分隊の先頭に立つ木崎二等兵に叩きつけられたのであった。  その時だった。先頭を行く木崎二等兵が「止まれ」の合図をし、BARを構え周囲を伺い始めた。 ―敵か?―  分隊に緊張が走った。 「伏せろ!!」  そう叫びながら木崎二等兵が私に飛びかかってきたと同時に、前方の小さい丘から銃声が響いてきた。 「敵襲!!」  と、誰かが叫び、木崎二等兵が誰よりも素早く応戦した。 「前方、一時の方角!!」  カン・ソンギ上等兵が叫び、我々も応戦した。 「落ちつけ!!よく狙って撃つんだ。」  木崎二等兵が私にそう言った。 「伍長、敵は恐らく一個小隊はいます。下がりましょう。」 「何を言うか、カン上等兵!!ここで奴らを皆殺しにするんだ。」 「しかし、多勢に無勢ですよ!!」 「黙れ!!命令だ。」  ヤン伍長は頭に血が昇っていて、カン・ソンギ上等兵の判断の方が正しかった。それ位、敵の銃撃は凄まじかったのである。  すると空から笛の音みたいのが聞こえてきた。 「迫撃砲!!」
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