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一九五○ 朝鮮半島
前線へと向かうトラックの中。
戦うことに誇りを感じている者。
ただ現実を冷静に受けとめている者。
家族か、恋人の写真を見ている者。
表情は様々であった。
私は不安でいっぱいであった。まさか自分が戦場に行くとは思ってもみなかった。北の軍隊が三八度線を越えてくるまでは…
唯一の救いは友人のコ・カンフォ二等兵が一緒だった事。彼とは中学からの付き合いであった。
足に痛みが走り私は我に返った。向かい側に座っている男に、足を蹴られたのである。
「お前、耳が聞こえないのか?」
「あ、すみません。ちょっと考え事を…」
「煙草持ってたら、一本くれないか?」
私は慌てた手つきで胸ポケから煙草を取り出し、箱ごとその男に手渡した。
「僕は未だ未成年ですから、どうぞ。」
厳しい目つきだった男は、表情を変えずに受け取った煙草に火を点けた。
「お前、学徒兵か?」
「はい、高校三年生です。」
「そうか…戦争になれば、どこの国もやる事は一緒だな。」
男は煙草をふかしながら言った。
男の言葉には、どこかなまりとは違う感じの発音があった。その理由は、この後でわかる事になる。
私達を乗せたトラックは、森の手前で停車した。この森を第五○六大隊が守備していた。そして私達はソン軍曹が指揮する分隊に配属になったのであった。
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