1 最前線と元日本兵

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 大隊本部といっても、風か吹けば壊れそうな仮設テントであった。 「必勝。」  チャン少尉はハン大隊長に敬礼をする。 「例の日本人を連れてまいりました。」  意外にもハン大隊長は笑顔で木崎を迎えた。 「君が木崎二等兵か?」  木崎は黙ったまま、うなづく。  チャン少尉は、その態度に舌打ちをする。 「君の経歴を色々調べたよ。日本海軍空挺部隊の少尉であり、メナドの空挺作戦に参加。数々の戦闘を経験し、大戦末期には本土決戦に備え新たな部隊を編成し、ソウルに駐屯。間違いないかね?」 「はい、よくそこまでお調べになりましたね。」  木崎は淡々と答える。  ハン大隊長は苦笑した。 「私の知る限りでは日本海軍の空挺部隊と言えば精鋭部隊のはずだ。」 「光栄であります。」 「そこでだ。」  ハン大隊長は、木崎に一丁の自動小銃を差し出した。 「色々と反対はあったが小銃の交換だ。M-1ライフルから、このBARにだ。君ならこの意味がわかるだろう。」  これにはチャン少尉が反発した。 「大隊長、お気は確かですか?この日本人にBARを渡すなんて。こいつは…」 「チャン少尉!!」  ハン大隊長はチャン少尉の言葉を切る。 「君は外で待っていたまえ。」  チャン少尉は、まだ何かを言いたい表情を浮かべながら敬礼をし木崎を睨みつけ、外に出ていく。  木崎は鼻で笑う。  BAR。米軍が第二次大戦で使用した自動小銃で、それは最も有能かつ勇敢な兵士が持たされた物である。 「知っての通り、北の連中が三八度線を越えて以来、我が韓国軍は連戦連敗だ。何故だかわかるかね?我が韓国軍はその程度の軍隊だからだよ。」  ハン大隊長は、煙草に火を点け、一呼吸おいた。 「あのチャン少尉だって、あぁ威張っていても兵士としては君の足元にも及ばない。いや、彼だけではない。この大隊全員がそうなのだ。  君に韓国軍に忠誠を示せとは言わん。だが、君も無関係な戦争の為に、異国の地で死にたくはないだろう?」 ―この男、なかなか話せるな―  木崎はそう感じた。 「君は生き抜く為で一向に構わん。この小銃で戦ってくれ。それが我が大隊の為にもなる。お互い損はないって事だよ。」  木崎は薄ら笑いを浮かべながら敬礼をする。 「かしこまりました。」 「色々大変だと思うがね、頑張ってくれたまえ。話は以上だ、分隊に戻りなさい。」
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