1 最前線と元日本兵

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 木崎は大隊本部を出る時、弾薬の入った木箱の横に、煙草を見つけた。そして、それをこっそりカートンごと盗んだのである。  外には、いかにも不機嫌な顔をしたチャン少尉が待っていた。 「大隊長に気に入られたからって調子に乗るなよ。お前が変なマネをしないように、常に誰かが見ていると思え。逃亡なんてしよいとしたら、即射殺するからな。」  木崎はBARをチャン少尉の前に突き出した。 「えぇ。せいぜい俺を見張っていてくださいよ。こいつの銃口が少尉殿に向かないようにね。」  チャン少尉は怒り、木崎を殴った。  だが木崎は倒れず、血の混じった唾を地面に吐いた。  同じ頃、私は何度も吐き続けていた。もう胃の中が空っぽになっても嘔吐はとまらなかった。 「ジンソク、少し休んでろよ。あとは俺がやるから。」  カンフォが気を遣ってくれた。彼がいなかったら私は戦う前に逃げ出していただろう。  私達がまず最初にやらされた事は、戦死した遺体の処理であった。五体満足の遺体はほとんどなく、手足や首なとが吹き飛ばされた遺体ばかりであった。更に私を苦しめたのは、遺体を焼く臭いであった。これがたまらなくきつかった。  大隊が守備するこの森の木々は、ことごとく雷でも落ちたような形をしていた。それが敵の砲撃でそうなった事は、すぐにわかった。敵は絶え間なく砲撃をしてくるという。それに反撃する砲兵隊はいなかった。  吐き気に苦しみながら、いずれは自分も敵の砲撃で殺されるのかと思うと、悪循環で嘔吐をとめる事が出来なくなってしまった。  遺体処理が済むと、休む間もなく今度は陣地構築の為、タコツボ堀となった。  遺体の処理のせいで、士気は低かった。 「自分の墓を掘ってるんじゃないか?俺達は。」  イ・ヨンスン一等兵が真顔で言った。
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