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「そんな…縁起でもない事言うのは、やめましょうよ。」
カンフォだけは士気が高かった。彼は国の為に戦う事に誇りを持っていた。
「学生さんは勇敢だね。赤の野郎共、余計な事しやがって。女房残して死ねってのかよ。」
キム・ソンボク一等兵は新婚であった。新婚生活一ヵ月もたたない内に戦争となり、徴兵されたという。何とも気の毒な話であった。
「おまけに同じ分隊に日本人がいるとはね。分隊内に敵がいる様なものだぜ。」
イ・ヨンスン一等兵が木崎二等兵の方に目をやりながら言った。
木崎二等兵は少し離れた所で、一人タコツボを掘っていた。
「あの人、日本海軍の空挺部隊の小隊長だったらしいですよ。日本海軍の空挺っていえば精鋭部隊だから頼りになるんじゃないですか?」
「バカだな、カンフォ。いくら精鋭でもあいつは日本人だぞ。日本人が俺達にしてきた事をお前だって知らない訳じゃないだろ。油断してると殺されるかもしれない。」
「ですよね…」
カンフォは首をすくめた。
「ジンソク。お前、あの人と同じタコツボなんだろ。…気を付けろよ。」
私はカンフォに言われて、黙ったままうなづいた。
私はソン軍曹から彼を見張るようにと命令を受けていた。日本人が嫌いじゃないと言えば嘘になる。だか、私は木崎二等兵が悪い人には思えなかった。
タコツボ掘りが終わると、我々は砲撃に怯えるようにタコツボに身を沈めながら、夜を迎えた。
木崎二等兵はタコツボの中で煙草をふかし続けていた。
「少し寝たらどうだ?安心しろ、殺したりはしない。」
という言葉に私は少し気を許し、色々とたずねてみた。極度の緊張で、眠れそうにもなかったのである。
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