1 最前線と元日本兵

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「どうして日本に帰らなかったんです?」  木崎二等兵は相変わらず煙草をふかし続けながら答えてくれた。 「俺の部隊は満州に侵攻してきたロシア軍と戦う為に輸送機で満州に向かったんだが、撃墜されてな。俺は運よく助かった。と、言っても足を負傷して歩けなかった。しばらくして歩けるようになり、満州へ向かおうとしたら、女が一人ロシア兵に襲われていて助けたんだが、一発撃たれちまった。その女の話だと戦争は終わっていて南の親戚の所へ行くという。俺は自決しようとしたが女にとめられて二人で南に行く事になった。なんとか、その女の親戚の家にたどり着いたが、撃たれた傷のせいで俺は動けなくなっちまって…その家で看護され回復した頃には、日本に戻る方法がなくてな。そしてその家で世話になってたんだよ。日本人とはいえ、大事な姪の命の恩人だからと言われてな。」 「そうだったんですか。」 「あぁ…そしたら、この戦争が始まったって訳さ。」  戦争は一瞬にして人々の人生を狂わせるものだと感じた。後に狂うのは人生だけではない事を、この時の私はまだ知るよしもなかった…  その夜、我々の大隊が砲撃される事はなかった。だが、遠くで砲声が一晩中鳴り響いていたのだった。  翌朝、我が分隊はチャン少尉から完全武装での召集を受けた。 「右翼の第八大隊と左翼の第十一大隊が昨夜の敵の攻撃により全滅したとの情報が入った。」  我々は思わず唾を飲んだ。第八・第十一大隊が全滅したとなると、我々は敵に包囲された事を意味した。 「お前達第二分隊は左翼の第十一大隊を偵察してこい。」 「偵察!?撤退ではないのですか?」
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