1 最前線と元日本兵

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「無駄口をたたくな。」  数キロ歩くと我々は第十一大隊が守備していた高地を見下ろせる所に着いた。  確かに高地は北の軍隊に占領されていた。更に我々はそこで驚く光景を目にする事になった。敵の兵達が捕虜となった韓国軍兵士を虐殺していたのであった。  一列に並べ射殺したり、銃剣で刺したり。あげくのはてには、小屋に数名の捕虜を押し込め、火を点けて焼殺しているのであった。  私は思わず目を伏せた。  クリスチャンであるイ・ヨンスン一等兵は十字架のネックレスを握りしめていた。  キム・ソンボク一等兵とカンフォは悔し涙を目に浮かべ、ヤン伍長とカン・ソンギ上等兵は怒りをあらわにしていた。  ただ一人、木崎二等兵だけは煙草に火を点け冷静な顔つきだった。 「赤野郎め!!」  ヤン伍長は怒りで頬をピクピクさせていた。 「あいつら、人間じゃない。」  キム・ソンボク一等兵は地面を蹴った。 「お前達よく見ておけ。赤野郎のやっている事を。」  ヤン伍長の言葉に、誰もがうなづいた。 「同じ朝鮮人だろうが。」  煙草を地面でもみ消しながら木崎二等兵は鼻で笑いながら言った。 「何だと?貴様。」  ヤン伍長が木崎二等兵の胸ぐらをつかんだ。  木崎二等兵は、それを振り払った。 「赤野郎?笑わせるな、お前らと同じ朝鮮人だれ。」 「ふざけるな!!俺達と赤野郎を一緒にするな!!」  キム・ソンボク一等兵が怒鳴った。 「何が違う?南北に国が別れているとはいえ、同じ朝鮮人だろ。同じ民族じゃねえか!!」  「この野郎」とキム・ソンボク一等兵が木崎二等兵につかみかかったが、木崎二等兵は軽がるとキム・ソンボク一等兵を投げ飛ばした。
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