I need you Ⅰ

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「あっ、別にほかの隊があんまり信頼しあえてないって言ってるわけじゃ…」 「…急にどうした」 しまった、と思った時にはもうすでに時遅し。心の声が、出てしまった。訝しげな表情でこっちをみる隊長に、私は笑顔で取り繕う。 「独り言です」 隊長は納得のいかない表情でしばらく私を見ていたけど、すぐに視線をそらして隊舎への道をまたゆっくり歩き出す。絶対に変な目で見られた、などと気にしている余裕なんてなくて、私はすぐに隊長の後を早足で追う。たくましくなったその背中には、何十年間も見つめ続けてきた、「十」の文字。きれいな字だな、と思う。バランスがとれていて、すべてをまとめてしまうかのような、美しい文字。そんな十番隊に私は副隊長として就任しているのだから、とてもうれしく思う。 「日番谷隊長」 「…なんだ」 珍しく私が名前で呼ぶから、隊長も少し眉をしかめている。そんな様子がおかしくて、私はくすくすと笑った。それが気に入らないのか、隊長は私が呼び止めたことも忘れたように、つかつかと歩き出す。久しぶりに隊長が子供っぽく怒るところを見られて、少し得をした気分になる。 「待ってくださいよ、日番谷隊長っ」 大事な打ち合わせの時くらいにしか、滅多に呼ばないその名前を、もう一度口にする。隊長は私を振り返ることはしなかったけど、少し歩調を緩めてくれた。――――冬獅郎。日番谷、冬獅郎。不器用な優しさをもつ、十番隊隊長。容姿は整っていて、頭脳明晰。戦闘能力も高く、幼い頃から神童と呼ばれていた。氷雪系最強の斬魄刀、「氷輪丸」を持っていて、隊長就任後は未完成だった卍解も、今となっては完璧になった。強さと、優しさとを兼ね揃えた、十番隊自慢の隊長。その背中を、私は護らせてもらっている。それがどれだけ誇り高いことか、最近になってようやく気付いた。 「こうやって隊長の背中の十の字を見てると、あの時のことを思い出します」 「あの時…?」 隊舎まではまだ幾分か距離がある。そのうちに、ふと思い出したことを、隊長に話してみたくなった。
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